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姉川たく個展:「hidden curriculum」

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会期 2006.4.22(土)〜5.14(日)
会場 NANZUKA UNDERGROUND
住所 東京都渋谷区渋谷2-7-13渋谷アイビスビルB1F
時間 13:00〜20:00
休館 月曜日、火曜日
入場 無料

主催:NANZUKA UNDERGROUND
企画:NANZUKA UNDERGROUND / phil co.,ltd.
監修:姉川たく


<Opening Reception>

2006.4.21(金) 20:00〜23:00 


東京での展示はNANZUKA UNDERGROUNDとの企画展。
レセプションは前日の21日となります。


姉川たくの作品を、西洋文明における織物芸術の枠内で捉えるとすれば、その系譜は アナトリア、エジプト、コプトなどの古代美術に起源を持つ「綴れ織り(タピストリ ー)」にまで遡る。麻や羊毛、絹などを用いて様々な絵柄や文様を織り出すタピスト リーの芸術的価値は、王侯貴族や教会の需要によって、13世紀から14世紀にかけ て高められ、やがてルネサンス、バロック時代を通じて、ヨーロッパ工芸芸術の重要 な側面を担うようになった(注1)。一方、日本における織物芸術も、既に5〜6世 紀には、例えば綴れ織りの曼荼羅図などが中国隋・唐より伝来しており、(注2)や がてその技術は、平安時代(8世紀末〜)になると、華やかな朝廷文化に支えられる 形で衣装などを中心に独自の表現様式を持つ媒体へと発展した。これが、京都西陣織 の源流である。以後、日本における織物芸術の歴史と伝統は、この西陣を中心に、今 日に至るまで固有の特色を持つ表現媒体として成長を遂げてきたのである。(注3)
とはいえ、姉川たくの作品を、そうした伝統的な織物芸術の系譜の中に一括りにして 捉えるのは誤りであろう。おそらく、姉川たくは、彼自身が伝統的表現の正統を意識 しているわけではないという点において、完全にコンテンポラリーなアーティストで ある。実際に、姉川が作品として製作しているものは、織物ではなく刺繍が中心であ り、その製作スタイルは、むしろフォーク・アートのそれに近い。あるいは、姉川が、
自らが主宰するデザイン会社にて日常的に手がけている空間演出、グラフィック、ア ニメーション、デジタルコンテンツといった多岐に渡る仕事の殆どを、デジタル・ツー ルを駆使したミクスト・メディアによって製作していることによっても、そのスタン スは明らかであろう。つまり、姉川たくとは、アカデミックなアート・シーンにおい ては未だにそのポジションを明確にしえないテキスタイル・刺繍・織物アートといっ た異端の地に居を構え、古典も現代も、インサイダーもアウトサイダーも、西洋も東 洋も、あらゆるアートの境界を越えて、表現しているオルタナティヴな存在なのであ る。
ところで、姉川は、今回の個展の基本テーマを「情報の制限」と掲げ、そのコンセプ トについて次のように語っている。

「日常、何気なく刷り込まれ、否応に関わらず、学習させられている社会規範のよう なもの。決して、全てが正しいとはいえないそれらの事項を、無自覚に受け取り、行 動の基礎としているのは、ある意味非常に社会的で、エコノミックアニマルのあるべ き姿としては鏡である。しかし、社会がうまく機能するために、巧みにコントロール されているはずのそれらは、イチ動物としてのヒトにとっては、非常に窮屈で退屈で もある。これは、“困ったこと”だと思う。同じ理屈で、間違った美意識もたくさん 刷り込まれている。そして、これは、更に“困ったこと”だと思う。今回の展覧会で は、そうした問題を掘り起こしたり、逆手にとったり、批判したり、参照したりして、 遊んで(製作して)みたいと思う。そして、結果として、この展示が、逆の意味での 隠れたカリキュラムになればいいと思う・・・。」

高度に戦術化された情報流出システムによって、ともすれば一個人の美意識すらコン トロールされているのではないか、という告白は、おそらく作家自身が常々感じてい る正直な感想であろう。しかし、伝達こそが情報の最大目標であるとすれば、姉川が 日常の仕事として携わっているデザイン・クリエイティヴは、まさしくその目標を施 行するためのツールとして存在するという側面を持つ。しかし、逆に、その「情報」 を、予めクライアントを必要としない自己表現(アート・ワーク)においては「制限 する」という試みは、あるいは姉川の深層本能に潜む表現欲求から自然とリクワイア (要求)されたものかもしれない。新しい美の発見は、いつの時代も、見落とされが ちな世界の片隅で起こってきた。ともすれば、クライアントの求めるクリエイティヴ だけでは満足できない姉川の表現エナジーが、我々にとっての「隠れたカリキュラム」 となる可能性は大いにあるであろう。なぜなら、テキスタイルと刺繍を駆使した姉川 作品の織り成す圧倒的な質感とリアリティーは、表層的で単一化された美意識に馴染 みがちな私たちの目には新鮮に映るはずだからである。ネオ・トーキョー発のアート・ シーンの現在を肌で感じたければ、まずこの個展に足を運んで欲しい。きっと、新し い発見があるはずである。

(注1)、国内で収蔵されているタピストリーの名品では、ルイ14世治下のフラン スで織られた著名なゴブラン織り連作〈王の城づくし〉中の1点《シャンボール城: 9月》(国立西洋美術館蔵)がある。
(注2)、現存している日本最古の綴れ織りは、当麻寺に残る「綴織当麻曼荼羅図」 伝763年
(注3)、平安京への遷都が行われると、朝廷は、絹織物技術を受け継ぐ工人(たく み)たちを織部司(おりべのつかさ)という役所のもとに組織し、綾・錦などの高級 織物を生産させている。いわば国営の織物業である。織物の工人たちは現在の京都市 上京区上長者町あたりに集まり、織部町といわれる町を形成した。これが、京都西陣 の源流である。


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